ワークショップから始める
「自由な」記念誌制作
「会社や団体の歴史を記録する」という目的で作られることが多い記念誌。しかし、ただ歴史が書き綴られただけの冊子では、読者は興味を持ってくれません。企画やレイアウト、装丁、すべてが「自由な発想」で作られた記念誌を読者に届ける。今回は富士見中学校高等学校の山崎様と宗様のお二人にご登場いただき、記念誌制作を担当した当社の石井、渡邊がお話を伺いました。
ワークショップで学校をイチから見直し
富士見らしい「新しい」記念誌を作る
渡邊 アドバンドに記念誌制作をご依頼いただけた理由をお伺いできますか?
宗 最初に私がお問い合わせをしたんですよね。当時、学校に赴任して日が浅いうちに記念誌制作の担当者という大役を任されてしまい、正直、とても戸惑いました(笑) そもそも私自身、これまでに発行された記念誌をちゃんと読んだことがなかったんです。これまでの富士見の記念誌は、どちらかと言えば歴史の資料集のようになっていて、装丁も重厚で余計に手に取りづらいものでした。だからこそ、せっかく任せてもらったからには、80周年の記念誌はこれまでとはテイストの違う、「気楽に読んでもらえる冊子にしたい」という想いがありました。発注先を検討するためインターネットで情報を収集している時に、アドバンドさんのホームページにたどり着いたんです。そこに書いてあった「記念誌はもっと自由でいい」というコピーを見たときに、「これだ!」と直感しました。
石井 早い段階で当社への発注を決めていただけましたが、どういう経緯だったんでしょうか?
山崎 発注を決める前に、記念誌制作メンバー全員で、これまでアドバンドさんが制作された記念誌のサンプルを拝見しました。そこで、編集方針の傾向や表現のトレンドを知りました。これまで私たちが制作してきた記念誌は、さっき宗さんが言ったように、気軽に読めるものではなかったんです。アドバンドさんの制作されている記念誌を見ているうちに、「新しいことをやってみたいな」という気持ちが強くなり、発注を決めました。
渡邊 今回、記念誌編集メンバーの方々とアドバンド社員2名でワークショップを行いました。あまり前例がなかったので、挑戦的な取り組みではあったのですが……。
宗 そうだったんですね! 慣れていらっしゃるので、てっきり場数をふまれているのかと思っていました。
石井 実は手探り状態でやっていました(笑)これまでの記念誌から脱却するには、対象読者やテーマを絞り、焦点をぶらさず制作することが重要だと気づいたんです。そこで、編集メンバーの方と一緒にワークショップをすることで、富士見の現状の課題や、未来へつないでいくべき伝統や思想、そこで働く方の気持ちなどを一度洗い直すことにしました。
山崎 ワークショップ中、模造紙に向かって課題などを書いたポストイットを貼っていく作業の中で、当校が抱える問題が明確になっていく感覚がありました。学校をイチから見直す、というところから一緒に支援していただけて、多くの気づきを得ました。もともと「過去のものとは違う記念誌を作りたい」という想いはあったものの、具体的なテーマや切り口は全然決まっていなくて。ゼロベース、マイナスベースからのご相談になってしまったんですが、ワークショップで上がった課題をもとに、アドバンドさんが的確な提案をしてくださり助かりました。丁寧にコミュニケーションを取ってくれて、ツール制作のコアになる部分まで一緒に探ってくださるのが、アドバンドさんの魅力だと思います。
渡邊 ありがとうございます。皆さんが積極的にワークショップに参加してくださったおかげで、今回の記念誌は「コトバ」という切り口でいこうという方向性を決めることができ、制作をスムーズに行うことができました。
宗 その切り口も、私たちだけでは絶対にたどり着けなかったと思います。アドバンドさんは「一緒に制作する」というのが魅力だと山崎理事長も話されましたが、大切な軸はぶれることなく提案していただけて安心感があります。ちなみに「コトバ」という切り口はどこから着想を得られたんですか?
渡邊 実は私の母も教員をしているんです。その母が、教育にとって言葉というものがいかに重要かを教えてくれたのを思い出し、それを参考にしました。加えて、最近は教員同士の言葉を使ったコミュニケーションの機会が減っていると聞き、これもヒントになりました。ワークショップをやっていく中で、記念誌の主要読者が「教職員」に決まったのですが、まだまだ富士見についてくわしく知らない方もいらっしゃいます。そういった方に、富士見のことを伝え、未来につなげていくにあたって最適な切り口は「コトバ」じゃないかな、と。
山崎 出てくるアウトプットが多く、さまざまな発見がありました。私たち教職員が「誇りに思うこと」や「未来に希望すること」を、デザインの面でもしっかり表現してくださったと感謝しています。
教職員が多く登場するアイデア勝負の企画で
未来に伝統をつないでいく記念誌を
渡邊 記念誌の中で特に気に入っていただけている企画などはありますか?
宗 くじを引いて、教職員同士でペアをつくり、写真を撮り合う企画がお気に入りです。写真を撮る場所やポーズ、小物を選べたので、自分の個性を思う存分表現できるし、富士見の校舎のお気に入りスポットも紹介でき、とてもよい企画に仕上がりました。
山崎 私もこの撮影を通して、ペアを組んだ教職員とともに参加することから記念誌の制作に携わっているという実感を持てました。自分たちが何らかの形で関わった冊子が手元に届くのは、ただ出来上がったものを「はい、どうぞ」と渡されるのとは全然ちがいますね。このアイデアは目から鱗でした。
石井 この企画は富士見さん側の負担も大きいので、我々としても提案するかどうか迷ったんです。でも教職員の方々が「面白そうだ」「やりたい」と言ってくださったので、実現することができました。皆さんが、記念誌をいいものにしたいという想いを持っているのがよくわかりました。本当にどの写真も個性が出ていて素敵ですよね。逆に私たちがポーズを指示していたら、こんなに自由な写真にはならなかったと思います。記念誌ということで、富士見の歴史をまとめたページも勿論ありますが、そちらについてはいかがですか?
山崎 ここでも「コトバ」を使って、80年の歴史を大きく3つに分けたことで、とてもわかりやすくなったと思います。いつも学校の歴史について考えているわけではないので、うっかりと忘れている部分も多かったんですが、記念誌の制作をきっかけとして、改めて創立から今までの流れを見直すことができました。その時に、ただ出来事を並べるのではなく、自分達でもテーマ性を持って歴史を整理したからこそ、より深く理解できたのかなと思います。過去を見直すことで、未来を考えるきっかけにもなりましたね。
石井 今回の記念誌は歴史ページも含めて、新しく富士見の仲間になった先生方が読むのに、ちょうどいいボリュームに収まったかなと思います。学校の歴史も俯瞰できるし、どんな方たちと今後働いていくのか、学校全体の風土みたいなものも伝わるよう意識しました。巻頭インタビューで出来事のきっかけになった「コトバ」を示したのは、「生徒が主体となって新しいことに挑戦できるよう全力でサポートをする」という、先生方の行動基盤となるモデルケースを見せたかったからです。
宗 実際に、2020年に赴任された新任の教職員にも記念誌を渡したのですが、楽しそうに読んでくれました。その教職員はペア写真が特にお気に入りだったみたいです。
渡邊 先生方一人ひとりのお人柄がよく出ていて、「こういう人たちと一緒に働くんだ!」と新任の先生も安心できると思います。
山崎 逆に、すでに富士見を退職された方にも渡したのですが、「これまでにない、新しい記念誌になりましたね」と好評でした。ここでも一番話題に上がっていたのはペア写真のページでしたが(笑)
記念誌から次のツールへ
アドバンドと富士見、二人三脚での挑戦
石井 記念誌制作後も、クレドブックや展示ブースなどのご依頼でお声がけくださりありがとうございます。ここでも当社を選んでいただけた理由はございますか。
山崎 コンサルタントのように、課題の洗い出しからサポートしてくださり、その解決のために最適な道筋を提案してくれるのが一番の理由ですね。記念誌制作の時もですが、「知らないことも勉強してみよう」という積極性があるので、どんなツールであっても「とりあえず石井さんと渡邊さんに相談してみよう」と、安心してご相談できます。
石井 制作者冥利に尽きます。「富士見さんにとってプラスになる仕事がしたい」という想いがあるので、いろいろなことに挑戦させていただけるのは本当にありがたいです。話は変わってしまうんですが、以前Webサイト改訂についてご相談いただいたことがありましたよね。その際、アドバンドとしては「今のままでも問題ない」とお答えしたのですが、「変えたい」という要望がある中で「変えなくていい」という提案をされたのはクライアント様にとってどのような印象でしょうか?
山崎 当時、広報から「改訂したい」と言われたこともあり、初めから何か行動を起こすことを前提で話を進めていました。そこでアドバンドさんにご相談したら、「ユーザーの直帰率が高いわけではなく、すぐに改訂する必要はない」とアドバイスいただいて。その言葉のおかげで、無理にWebサイトを改訂しなくてもコストを抑えてできることがあるんじゃないかと気づくことができました。
石井 そう言っていただけるとこちらとしてもありがたいです。
山崎 お二人も一緒に働く教職員なんじゃないかと思うくらい、我々と同じ感覚を共有していただけています。今日も渡邊さんは「この取材に合わせて富士見カラーの服を選んできた」と言ってくれて。そういう親しみある関係性でいたいですね。
渡邊 記念誌の制作を通して、富士見の歴史を学んでいく中で、どんどん学校のファンになっていきました。今回、制作を通して得た知識は、他のツール作成にも役立つと思います。その点、別の案件でも真っ先にお声がけいただけるのは、名誉なことだと思います。今後も長くお付き合いできればうれしいです。
宗 授業でもご協力をお願できないか、というお話もしましたよね。ある物事をデザインに落とし込むまでのプロセスを、生徒に教えてもらうことはできないかなって。それに、adLive(アドバンドが発行する広報誌)の記事を授業で使わせていただいたんです。そういう意味で、本当にアドバンドさんを信頼しています。
石井 SDGsの特集記事を教材として使っていただいたんですよね。毎回よい記事をお届けできるよう、これからも精進いたします。今後、制作を予定しているクレドブックも、当社にとってまだ実績の少ないツールです。新しいことにチャレンジしながら、まさしく富士見さんとの「共同作品」を一緒に作り上げたいと思います。
本日はありがとうございました。